相続放棄したらお墓はどうなるの?
相続放棄してもお墓の承継に影響はありません
相続放棄の効力については、民法939条により「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」と定められています。
「初めから相続人とならなかった」ものとみなされるのであれば、お墓や仏壇、位牌なども承継できなくなるようにも思えます。
しかし、相続放棄をした場合であっても、お墓などを引き継ぐ権利には影響がありません。
系譜、祭具および墳墓など、祖先を祭るために使用されるものを「祭祀財産(さいしざいさん)」と呼びます。
【用語解説】
- 系譜(けいふ)
家系図など、先祖から子孫へと連なる血縁関係を記載した図表をいいます。 - 祭具(さいぐ)
位牌・仏像・仏壇・神棚・十字架など、祖先の祭祀や礼拝を行う際に使用される器具をいいます。 - 墳墓(ふんぼ)
墓地・墓碑・墓石・埋棺など、死者を地中に埋葬しているお墓などの建造物、またはその場所のことをいいます。
法律では「相続財産」と「祭祀財産」を区別しており、相続放棄をしても「相続財産」を引き継ぐ地位を放棄するだけなので、「祭祀財産」についてまで放棄することにはならないのです。
- 民法第896条 (相続の一般的効力)
相続人は相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。
ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。 - 民法第897条(祭祀に関する権利の承継)
系譜、祭具および墳墓の所有権は、前条の規定に関わらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。
ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主催すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本分の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が決める。
相続放棄した場合、お墓などの祭祀財産は誰が承継するの?
では、相続放棄した場合、お墓などの祭祀財産は誰が承継することになるのでしょうか?
祭祀財産の承継者を決める方法については、順番があります(民法897条)。
- 被相続人の指定
- 相続人間での話し合いや慣習
- 家庭裁判所
1.被相続人の指定
まず、被相続人の指定がある場合は指定された者が優先されます。
祭祀承継者を指定する方法は文書だけでなく口頭でも可能ですが、遺言書で指定するのが一般的です。
2.相続人間での話し合いや慣習
被相続人が承継者を指定しなかった場合、次に慣習によって承継者が選ばれます。
慣習とは、社会生活における特定の事項について、反復して行われているならわしが一種の社会規範になっている状態をいいます。
しかし、現代では明確な慣習が認められることは通常ないと考えられているため、実際は相続人間の話し合いで決められています。
ただし、墓地によっては、承継者は原則として使用者の親族に限るといった条件を設けている場合もあるため、お墓の管理者に1度問い合わせをして、使用規則について確認することをお勧めします。
3.家庭裁判所
相続人間の話し合いでも承継者が決まらない場合は、最終的に家庭裁判所が承継者を指定することになります。
方法としては、相続人などの利害関係人が、家庭裁判所に「祭祀承継者指定の調停、または審判」を申し立てます。
申立権者に係る規定はありませんが、共同相続人は全員が参加しなければならないとされています。
実際の申立書には、共同相続人の一人または数名を申立人の欄に書き、その他の共同相続人を相手方の欄に書きます。
家庭裁判所の手続きの中には、最初に必ず調停をしなければならないものもあるのですが、祭祀承継者の指定の場合は、調停をせずに審判を申し立てることもできます。
審判によって祭祀承継者を指定する場合、家庭裁判所は主に以下の事項を基に総合的に考慮して「被相続人が生存していればおそらく指定したであろう者」が選ばれることになります。
- 従前の被相続人の意思
- 相続人と祭祀承継者の身分関係
- 過去の生活関係や生活感情の緊密度
- 祭祀を主宰する意欲や能力
- 利害関係人の意見
墓じまいを自分で行う
祭祀承継者に自分が選ばれたが、もはや自分でお墓の管理ができないと考えた場合はどのように対処すれば良いのでしょうか。
祭祀承継者の権限として、墓じまいをすることも自由にできます。
お墓を自分の住居の近くに引越しを行うことも、永代供養墓に入れることも可能です。
墓じまいの手続きは複雑であり、改葬許可申請という行政手続きのほか、寺院(霊園)との墓地使用契約の解約、墓石の撤去などが必要となります。そのため、墓じまいには多くの費用がかかります。
墓じまいの手続きについては別のコラムで詳しく解説していますので、そちらをご覧ください。
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