生前贈与で贈与契約書は必要?ひな形と書き方を解説。
贈与契約書を作成する必要性
贈与契約書を作成することは必須ではありません。
しかし、後日トラブルになるのを防止するために贈与契約書を作成することをオススメします。
具体的には次の3つのメリットがあります。
1.一方的に解除されるのを防ぐことができる
贈与契約とは、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、成立する契約をいいます(民法549条)。
贈与契約は口頭だけで成立するものですから、贈与契約書を作らなくても契約の効力自体は生じます。
ただし、軽率な贈与を予防し、贈与者の意思を明確にして後日の紛争を避けるために、書面によらない贈与は当事者の片方が一方的に解除することができるとされています(民法550条)。
したがって、一方的に撤回されるのを防ぐため、贈与契約書という書面にしておくべきでしょう。
民法550条 書面によらない贈与は、各当事者が解除することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。
2.定期贈与として課税されるのを防ぐことができる
贈与は生前から少しずつ子供や孫に財産を渡していく、暦年贈与が一般的で、毎年1月1日から12月31日までの間に110万円までの財産贈与なら非課税になるという仕組みです。
この110万円の範囲内であれば、財産の贈与に関して贈与税がかかりません。
しかし、税務署側から「贈与税を回避するために1000万円の贈与を10年に分けただけだ」と判断されると、贈与の最初の年に贈与契約があったとして1000万円に贈与税が課税されることになります。
贈与契約書があれば、その都度贈与の事実があったことを証明し、不当な課税を防ぐことができます。
3.名義預金として贈与の事実を否定されるのを防ぐ効果がある
名義預金とは,第三者の名義であるにもかかわらず、亡くなった人の財産とみなされる預金のことをいいます。
この指摘が相続発生後にされると「相続税逃れのために預金の名義を第三者にしただけだ」とされ、相続税が課される可能性があります。
贈与契約書のひな形
1.不動産を贈与する場合
贈与契約書
○○(以下「甲」という。)と、○○(以下「乙」という。)は、以下の通り贈与契約を締結した。
第1条
甲は、乙に対し、甲の所有する下記の不動産(以下「本件不動産」という。)を贈与することを約し、乙はこれを承諾した。
(土地)
所在 東京都豊島区池袋〇丁目
地番 〇番〇号
地目 宅地
地積 ○○.○○㎡
(家屋)
所在 東京都豊島区池袋〇丁目
家屋番号 〇番〇号
種類 居宅
構造 木造ストレート葺2階建
床面積 1階 ○○.○○㎡
2階 ○○.○○㎡
第2条
甲は、令和〇年〇月〇日までに、本件不動産を乙に引き渡し、また、その所有権移転登記を行う。所有権移転登記手続に要する一切の費用は乙の負担とする。
第3条
本件不動産に係る公租公課は、所有権移転登記の日までに相当する部分は甲の負担とし、その翌日以降に相当する部分は乙の負担とする。
以上を証するため、甲及び乙は、本書を2部作成し、記名、押印のうえ、各1部を保有する。
令和〇年〇月〇日
甲 東京都豊島区池袋〇丁目〇番〇号
○○ ㊞
乙 東京都豊島区池袋〇丁目〇番〇号
○○ ㊞
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不動産の贈与契約書(ひな形、不動産、PDF形式)
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2.金銭を贈与する場合
贈与契約書
○○(以下「甲」という。)と、○○(以下「乙」という。)は、以下の通り贈与契約を締結した。
第1条
甲は、乙に対し、現金○○万円を贈与することを約し、乙はこれを承諾した。
第2条
甲は、前条の贈与金を、令和〇年〇月〇日までに、乙が別途指定する銀行口座に振り込んで支払うものとする。その振り込みに要する費用は甲の負担とする。
以上を証するため、甲及び乙は、本書を2部作成し、記名、押印のうえ、各1部を保有する。
令和〇年〇月〇日
甲 東京都豊島区池袋〇丁目〇番〇号
○○ ㊞
乙 東京都豊島区池袋〇丁目〇番〇号
○○ ㊞
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金銭の贈与契約書(ひな形、金銭、PDF形式)
金銭の贈与契約書(ひな形、金銭、Word形式)
3.株式を贈与する場合
贈与契約書
贈与者 ○○(以下「甲」という。)と、受贈者○○(以下「乙」という。)は、以下の通り贈与契約を締結した。
第1条
甲は、株式会社○○(本店 東京都豊島区池袋〇丁目〇番〇号)の普通株式○○株(以下、「本件株式」という。)を乙に贈与するものとし、乙はこれを承諾した。
第2条
前条の贈与は、令和〇年〇月〇日に行われるものとし、同日をもって、本件株式に関する権利は乙に移転するものとする。
以上を証するため、甲及び乙は、本書を2部作成し、記名、押印のうえ、各1部を保有する。
令和〇年〇月〇日
甲 東京都豊島区池袋〇丁目〇番〇号
○○ ㊞
乙 東京都豊島区池袋〇丁目〇番〇号
○○ ㊞
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株式の贈与契約書(ひな形、株式、PDF形式)
株式の贈与契約書(ひな形、株式、Word形式)
贈与契約書の書き方
【贈与契約書に必要な事項】
贈与契約書に以下の事項を記載する必要があります。
※贈与する条件がある場合、その条件
①いつ贈与するか
贈与契約書の中に、いつ贈与するかを明記しておきましょう。
贈与にあたっては、銀行振込により通帳に記録するなど、客観的に証明できるようにしておくことも大事です。
例えば、贈与契約書に記載されている日付と通帳の振込日が同じであれば、贈与契約書の内容が正しいことを示すことができます。
②誰が・誰に対し贈与するのか
贈与者は財産を与える方、受贈者は財産を受ける方を指します。
親が子に生前贈与する場合、親が贈与者で、子が受贈者になります。
その場合、贈与者の欄に親が、受贈者の欄に子が、それぞれ署名捺印します。
③なにを・どれくらい・どのようにして、贈与するか
贈与する財産の内容(現金・預貯金・不動産・株式など)や、その金額・数量、贈与の方法を具体的に記載しましょう。
贈与財産が不明確であると、後のトラブルにつながります。
誰が見ても分かるように、できる限り詳しく記載するのがよいでしょう。
【署名と捺印について】
贈与契約書には、それぞれ自筆で署名し、実印で捺印するようにしましょう。
パソコンで名前を入力して印刷し、三文判を押しただけでは、勝手に作ったのではないかという疑いをかけられるおそれがあります。
【収入印紙について】
不動産以外の財産(現金や株式など)を贈与する場合、贈与契約書に収入印紙を貼る必要はありません。
不動産を贈与する場合、具体的な金額を記載しないのであれば、200円の収入印紙を貼れば済みます。
もし不動産の具体的な金額を記載した場合、その金額に応じた収入印紙の貼付が必要になります。
なお、贈与契約書に収入印紙を貼らなければならない場合に、そのことを忘れて収入印紙を貼らずに贈与契約書を作成してしまったとしても、贈与契約が無効になることはありません。
収入印紙はあくまでも税金の問題なので、贈与契約自体に影響を及ぼすことはないからです。
贈与契約書作成時や贈与を行う際に気をつけるべき注意点
1.氏名だけは必ず直筆でサインすること
パソコンで名前を入力して印刷し、三文判を押しただけでは、勝手に作ったのではないかという疑いをかけられるおそれがあります。
そのため、氏名だけは必ず直筆でサインするようにしましょう。
2.贈与契約書は、毎回作成すること
生前贈与では、贈与税の基礎控除額(110万円)以下の贈与を繰り返すことで、多額の贈与を無税で行うことができます。
ただし、長期間にわたって定期的に同額の贈与を行っていれば、「年間の贈与額×年数」の金額を一括で贈与する意思があったとみなされて、贈与を始めた年に高額の贈与税をかけられる可能性があります。
贈与税が課税されないためには、一括贈与ではないことを客観的に証明することが必要で、毎年の贈与のたびに贈与契約書を作成しておくことが有効です。
3.通帳・印鑑などは名義人が管理する
それと同時に印鑑・通帳は名義人が所持し、管理が出来るようにしておく必要性があります。名義が違っても、被相続人が預金の管理をしていると、名義預金と判断される危険があります。
4.生前贈与のタイミングについて
被相続人が亡くなる3年以内に相続人に対してした生前贈与は、相続財産に持ち戻して相続税の計算を行います。
これは被相続人が亡くなる直前の相続税対策のための駆け込み贈与に対する対策として定められたものです。
生前贈与をしようと考えたら、早めに準備を進めておくことをお勧めします。
但し、持ち戻しを受ける対象者は、相続によって財産を取得する者に限られます。
相続人ではない孫や、子供の配偶者などに贈与を行えば、この3年内加算のルールにはひっかからないことになります。
そのため、相続が3年以内におきそうだというような場合には、相続によって財産を取得する者以外に財産を贈与すると相続税対策になります。