養子縁組をすると相続関係はどうなるの?
養子は実子と何が違うのか?メリット・デメリットも解説!
目次
養子縁組をすると相続関係はどうなるの?
結論から言うと以下のようになります。
- 普通養子縁組の場合、養親・実親のどちらが亡くなったとしても、養子は実子と同様の相続分を有します。
- 特別養子縁組の場合、養親が亡くなったときは実子と同様の相続分を有しますが、実親が亡くなったときは相続権自体ありません。
このように養子の相続関係は、普通養子縁組か特別養子縁組かによって扱いが異なります。
この記事では、そもそも養子とは何かから始まり、養子による相続や相続税までわかりやすく説明します。
そもそも養子縁組とは何か?
養子縁組とは、血のつながりのない人に、法律上の親子関係を発生させることをいいます。
養子縁組をした場合、養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得します。
嫡出子とは、結婚している夫婦間に生まれた子のことをいいます。
養子縁組をすると、養子と養親との間に相続権と扶養義務が生じ、養子は、養親の氏を称さなければならなくなります。また、養親が親権者となります。
普通養子縁組と特別養子縁組って何が違うの?
相続において決定的に違うのは「実親の相続人になれるか否か」です。
【特別養子縁組】
特別養子縁組とは、子供と実親との親子関係を法的に断絶させ、養親と子どもとの間に親子関係を結ぶことをいいます。
特別養子縁組が利用される典型例
- 子どもが実の親から虐待を受けている
- 経済的に著しく困窮した環境で育てられている
- 保護者のいない子どもを施設などから引き取りたい
このような状況を解消するために結ぶ養子縁組なので、養子と実親との関係を断絶させて養親との間で新しく親子関係を結ぶ必要があるのです。
特別養子は実親の相続権を失います。
身分関係に大きな影響を及ぼすため、条件も厳しく、家庭裁判所の手続きを経て初めて効力が発生します。
【普通養子縁組】
普通養子縁組の「普通」とは、特別養子縁組と区別するための名称にすぎません。
普通養子縁組が利用される典型例
- 再婚時、妻の連れ子を養子にしたいとき
- 相続税対策を考えて孫を養子にするとき
このようなときに利用されるため、特別養子縁組とは違って普通養子は実親と養親の両方の「相続権」と「扶養義務」が併存した状態となります。
他方、「氏」は養親の氏を使用し、「親権者」は養親となります。
※親権者とは、子どもの身の回りの世話をしたり、子どもに代わって財産の管理をする人のことをいいます。
普通養子縁組 | 特別養子縁組 | |
縁組の手続き | 養子と養親の合意 役所への届出 |
6ヶ月の試験養育期間 家庭裁判所の審判 |
縁組の要件 | 【養親】 単独、独身可 成人以上 【養子】 年齢制限はないが、養子が養親よりも年長者でないこと 【父母の同意】 必要 |
【養親】 夫婦共同でのみ可 一方が25歳以上、他方が20歳以上 【養子】 原則15歳未満 【実父母の同意】 必要 【その他】 6ヶ月以上の監護をしていること ※監護とは、面倒をみることをいいます。 |
実親との相続権 | あり | なし |
普通養子縁組と特別養子縁組の見分け方は?
特別養子縁組の有無は「戸籍」を見ればわかります!
特別養子縁組が家庭裁判所で認められると、戸籍上では次のように変化していきます。
- 実親の戸籍から特別養子が除籍される。
- 一旦、特別養子を筆頭者とする新戸籍が作られる。
- 同じ日付で新戸籍から除籍され、養親の戸籍へと入る。
まず、実親の戸籍には「年月日特別養子縁組の裁判確定」と記載されます。
次に、養子1人の戸籍が作られますが、その戸籍には「年月日〇〇の特別養子となる縁組の裁判確定」と記載されています。
最後に、養親の戸籍に入るのですが、ここでは「特別養子」の文字はでてきません。代わりに「年月日民法817条の2による裁判確定」と記載されます。
民法817条の2の規定は以下のようになっています。
第817条の2
家庭裁判所は、次条から第817条の7までに定める要件があるときは、養親となる者の請求により、実方の血族との親族関係が終了する縁組(以下この款において「特別養子縁組」という。)を成立させることができる。
前項に規定する請求をするには、第794条又は第798条の許可を得ることを要しない。
また、続柄も養子・養女ではなく「長男」「長女」と記載されます。
これは、特別養子縁組が行われた事実を他人に知られたくないという方が多いという事情から、特別養子であることが一見してわかりにくいように配慮されたものだとされています。
以上より、特別養子縁組の有無は養子の戸籍の戸籍を見ればわかります。
他方、普通養子縁組の場合は戸籍に縁組の日付や養親の氏名、続柄に養子・養女と記載されています。
養子が既に亡くなっていた場合、養子の子供には代襲相続されるの?
誰かの代わりに相続することを「代襲相続」と呼びます。
代襲相続が認められるためには、代襲相続人が被相続人の直系卑属であることが必要です(民法887条2項但書)。
直系卑属とは、子・孫など自分より後の世代で、直通する系統の親族のことをいいます。
例えば、子も孫も既に死亡している場合は、ひ孫が代襲相続人となります。
死亡のほかにも、子が欠格事由や廃除により相続できなくなったときにも孫が代襲相続人となります。
養子の子どもの場合は、生まれたタイミングによって代襲相続されるかが異なります!
養子縁組の後に生まれた →代襲相続される
養子縁組は「養子」と「養親」との間の親族関係を発生させるものに過ぎず、「縁組前に生まれていた子」との親族関係を発生させるものではありません。
これに対し、縁組後に生まれた子は、既に養親と養子の間に親族関係が発生した後に出生しているため、養親との間にも親族関係が発生するのです。
養子縁組をすると相続税が軽減される!
養子縁組をすることによる相続税の3つメリット
- 相続税の基礎控除が増える
- 生命保険の非課税枠が増える
- 死亡退職金の非課税枠が増える
1.相続税の基礎控除が増える
相続税は、遺産の総額から基礎控除として「3000万円+(法定相続人の数×600万円)」を差し引いて計算されます。
養子縁組を結べば、法定相続人の数はそれだけ増えることになります。法定相続人の数が多いほど基礎控除額が増えるため、相続税が安くなります。
2.生命保険の非課税枠が増える
被相続人が生命保険に加入していた場合は、死亡によって保険金が支給されます。生命保険の死亡保険金は、本来、被相続人が保有していた財産ではないので遺産には含まれません。
ただし、被相続人の死亡によって発生した財産なので相続税の課税対象になります。これを「みなし相続財産」といいます。
死亡保険金は、契約者が亡くなってしまったあとの遺族の生活を支える大切な資金です。そのため、遺産と同じように非課税枠が設けられています。
死亡保険金の非課税枠は「500万円×法定相続人の数」です。養子縁組によって法定相続人の数が増えるため、死亡保険金に対する相続税も軽減されます。
3.死亡退職金の非課税枠が増える
被相続人が会社に勤めていた場合は、将来受け取ることができたはずの退職金が『死亡退職金』として支給されることがあります。死亡退職金も、死亡保険金と同じくみなし相続財産となるため、相続税の課税対象となります。
非課税枠は「500万円×法定相続人の数」なので、養子縁組によって相続税の軽減が期待できます。
養子縁組による相続税対策の注意点
相続税対策の注意点としては2点ほどあります。
- 養子の人数
- 相続税の2割加算
1.養子の人数
遺産の総額から基礎控除として「3000万円+(法定相続人の数×600万円)」を差し引いて計算されますが、この「法定相続人」にカウントされる養子には制限があります。そのため、闇雲に養子を増やしても相続税対策とはなりません。
- 被相続人に実子がある場合には養子1人まで
- 被相続人に実子がない場合には養子2人まで
※あくまで相続税法上の制限であり、民法上は養子の人数に制限はありません。
2.相続税の2割加算
相続税額の2割加算とは、故人の配偶者、子、両親、代襲相続人である孫以外の人が遺産を相続したときに相続税が2割加算される制度です。
なぜ2割加算されるかというと、本来、親→子→孫と相続されるところ、意図的に親から孫に直接相続させることによって相続税の課税を1回減らすこともできます。しかしそれではあまりに他の納税者と不均衡が生じてしまう、ということで法律上調整を図ったとされています。
【2割加算の対象にならない人】
・配偶者
・1親等の親族(父母・子)
・代襲相続である孫
【2割加算の対象となる人】
上記以外の人。
例えば
・兄弟姉妹
・祖父母
・代襲相続人でない孫
・その他親族でない人
養子で相続人を1人増やすことによって節税できるのは600万円の基礎控除ですから、遺産が多い場合には税金が20%も増加することで、かえって不利益になる可能性もあるのです。