全員が相続放棄しても管理義務が残ります!
法定相続人全員が相続放棄をした後は放置してもいいのか?
【法定相続人全員とは】
誰が相続人となるかについては、順位があります(民法887条、889条)。
第2順位・・・両親・祖父母
第3順位・・・兄弟姉妹・その子
※配偶者がいれば常に相続人となります。
法定相続人とは、第3順位までの相続人のことを指します。
第4順位の相続人、第5順位の相続人なんてものはありません。
第3順位の相続人である兄弟姉妹・その子までの相続人すべてが相続放棄の手続きをすると、法定相続人がいない状態になります。
では、法定相続人がいない状態になった場合、相続財産は放置してもいいのでしょうか?
【相続人の管理義務】
相続放棄を希望されるお客様とお話をすると、「相続放棄をすれば、あとは何もしなくていい。一切の権利義務から解放される。」と思われている方が非常に多いという印象を受けます。
しかし、相続放棄したからといって、直ちに何もしなくてもよくなるということにはなりません。
法律では、「相続放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」(民法940条)とされています。
法定相続人全員が相続放棄をして相続人がいなくなる場合は、相続財産管理人(代わりに相続財産を管理することになる人)が実際に管理を始められるまで、最後に相続放棄をした相続人に管理義務が課されることになります。
ここでの「自己の財産におけるのと同一の注意義務」とは、このまま放置すると第三者に損害が生じる危険性があると分かっているような場合には何かしらの対処をしてくださいね、というものです。
例えば、家屋が老朽化して倒壊する危険があれば、補強工事をしなければなりませんし、雑草が生い茂って害虫が発生するのであれば、除草・駆除しなければなりません。
求められる注意義務の程度については、職業やその地位によって客観的に要求される程度の注意までは求められておらず,行為者自身の注意能力に応じて注意をしていれば足ります。
もし、この注意義務に反して第三者に損害を生じさせてしまった場合は損害に応じて弁償をしなければいけなくなります。
では、この管理義務から解放されるためにはどうすればよいのでしょうか?
財産がどれくらい残っているか
全員が相続放棄をした後の処理は、相続財産がどれくらいあるかにより異なります。
以下、不動産など価値のある財産を残っている場合と借金のみで現金などの財産がほとんどない場合に分けて解説致します。
不動産など価値のある財産を残っている場合
法定相続人全員が相続放棄をしても、不動産など価値のある財産を残っている場合は、誰かが勝手に処分してくれるわけではありません。
相続放棄した相続人(又は債権者などの利害関係人)が、裁判所に対して、「代わりに不動産や預貯金を処分し、借金があれば債権者に支払いをしてくれる人を決めてください」とお願いする必要があります。
この、代わりに相続財産を処分したり、債務を清算してくれる人のことを「相続財産管理人」と呼びます。
相続財産管理人が選任され、預貯金通帳や空き家などの不動産を引渡した時点で、相続人は管理義務から解放されます。
【相続財産管理人選任の申立~選任まで流れ】
- 必要書類を集める。
- 家庭裁判所に申立てを行う。
- 予納金を支払う。
相続財産から相続財産管理人に対する報酬額を捻出できないと見込まれる場合に限り、家庭裁判所から予め予納金を払うように指示されます。
事案にもよりますが、相続財産管理人の報酬は30~100万円ほどかかります。 - 相続財産管理人が選任される。
【申立人】
相続財産管理人の選任の申立てができるのは、利害関係人又は検察官に限られています。
利害関係人とは、以下のような者が該当します。
- 相続放棄をした相続人
- 債権者
- 特別縁故者
1.相続放棄をした相続人
相続放棄をしても相続人には管理義務がずっと残ってしまうため、管理義務から解放されるために相続財産管理人の選任の申立てができます。
2.債権者
相続放棄により相続人がいなくなった場合でも、被相続人の借金や未払金が消えてなくなるわけではありません。
債権者は、相続財産から借金や未払金を回収するために、相続財産管理人の選任の申立てができます。
3.特別縁故者
特別縁故者とは、被相続人が亡くなるまで身の回りの世話をしていた人や、同居していた内縁の配偶者など生計を同じくしていた人のように家族同然の生活をしてきた人のことをいいます。
相続人がいない場合に限り、家族同然の生活をしてきた人にも相続財産分与の請求権が認められているため、相続財産管理人の選任の申立てができます。
最終的に「特別縁故者」に当たるかどうかは裁判所の判断によります。
【管轄】
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
管轄裁判所を調べたい方はこちら
【必要書類】
- 被相続人の住民票の除票(又は戸籍の附票の除票)
- 戸籍
①被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍
②被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍
③被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍
④被相続人の祖父母(直系尊属)の死亡の記載のある戸籍
⑤被相続人の兄弟姉妹で死亡している方がいる場合,その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍
⑥代襲者としてのおいめいで死亡している方がいる場合,そのおい又はめいの死亡の記載がある戸籍 - 相続放棄申述受理証明書
相続放棄により相続人がいなくなった場合、相続人全員の相続放棄申述受理証明書 - 財産を証する資料
・既登記不動産がある場合、登記簿謄本、固定資産評価証明書
・未登記不動産がある場合、固定資産評価証明書
・預貯金・有価証券がある場合、通帳写し,残高証明書等 - 利害関係を証する資料
債権者からの申立ての場合、金銭消費貸借契約書写し等
相続人からの申立ての場合、戸籍 - 財産管理人の候補者の住所がわかる書類
候補者を記載する場合には候補者の住民票又は戸籍附票 - 申立書、財産目録
裁判所のホームページから以下の書式をダウンロードすることができます。家事審判申立書(PDF:112KB)PDFファイル
家事審判申立書(相続財産管理人選任)の記入例 (PDF:258KB)PDFファイル
土地財産目録(PDF:29KB)PDFファイル
建物財産目録(PDF:33KB)PDFファイル
現金・預貯金・株式等財産目録 (PDF:28KB)PDFファイル
【選任後の流れ】
一般的な手続の流れは次のとおりです。途中で相続財産が無くなった場合はそこで手続は終了します。
- 選任された旨の公告
家庭裁判所は,相続財産管理人選任の審判をしたときは,相続財産管理人が選任されたことを知らせるための公告をします。
↓ 2か月 - 他に債権者・受遺者がいないかどうかの公告
1の公告から2か月が経過してから,財産管理人は,相続財産の債権者・受遺者を確認するための公告をします。
↓ 2か月以上 - 他に相続人がいないかどうかの公告
2の公告から2か月が経過してから,家庭裁判所は,財産管理人の申立てにより,相続人を捜すため,6か月以上の期間を定めて公告をします。期間満了までに相続人が現れなければ,相続人がいないことが確定します。
↓ 6か月以上 - 特別縁故者による申立て
3の公告の期間満了後,3か月以内に特別縁故者は相続財産分与の申立てをすることができます。
↓ 3か月 - 遺産の売却
必要があれば,随時,財産管理人は,家庭裁判所の許可を得て,被相続人の不動産や株を売却し,金銭に換えることもできます。 - 債権者等への支払い
財産管理人は,法律にしたがって債権者や受遺者への支払をしたり,特別縁故者に対する相続財産分与の審判にしたがって特別縁故者に相続財産を分与するための手続をします。 - 国庫に帰属するための手続き
6の支払等をして,相続財産が残った場合は,相続財産を国庫に引き継いで手続が終了します。
※かかる期間の目安としては、申立てから清算手続きの終了まで最低でも13か月かかります。
借金のみで現金などの財産がほとんどない場合
【相続財産管理人の申立ては不要】
亡くなった方がいくらかの不動産なり現金なりを残していれば、債権者へ貸したお金が戻ってくる可能性がありますが、借金のみで現金などの財産がまったく残っていなかったら、債権者が相続財産管理人を申し立てたところで、何も戻ってこなくなります。
この場合、予納金のみを支払って終了となってしまうため、債権者が相続財産管理人の申立てをすることは通常考えられません。
【相続人の管理義務】
借金のみで現金などの財産がまったく残っていない場合は、管理するプラスの財産もないため放置しても管理義務違反とはなりません。
但し、何もしないでいると債権者から催告状がたくさん届くため、精神的にビクビクする状態が続いてしまいます。
そのためにも、既にわかっている債権者には相続放棄申述受理証明書をこちらから送って請求を止めてもらうようにした方がよいでしょう。
最後に
相続人全員が相続放棄を検討するような場合、その空き家を売りに出してもなかなか買い手が見つからないケースが多いものです。
しかし他方で、相続財産管理人の選任に100万円程度の予納金を払うことを覚悟しなければなりません。
そこで、手間と時間がかかってもいいのであれば、空き家の財産的な価値が低い場合は相続放棄せずに、一旦相続した上で自分で売りに出すことも検討したほうがよいでしょう。
相続放棄の手続きをする前に考えておくべきことはたくさんあります。手続きの進める際には、1度専門家に相談されることをお勧めいたします。
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