自筆証書遺言書と公正証書遺言の比較
新しくできた自筆証書遺言書保管制度により何が変わったのか?
目次
自筆証書遺言書保管制度とは?
自筆証書遺言とは、遺言者が,遺言書の全文,日付及び氏名を自書して,これに印を押したものをいいます。
但し、例外的に財産目録を添付するときは,その目録については自書しなくてもよいとされています。
従来は、自分で書いた遺言書は自分で保管しなければなりませんでしたが、自筆証書遺言書保管制度を利用すれば法務局で保管してくれるようになりました。
では、どのように変わったのでしょうか?
自筆証書遺言書保管制度と自己保管の自筆証書遺言との比較
手書きで遺言書を作成した後に、自分で保管すべきなのか、法務局で保管してもらう方がいいのか判断するにはどこが同じでどこが違うのかを把握する必要があります。
【共通点】
共通点は以下の2つがあります。
- 自分1人で作成が可能な点
- 無効になるリスクがある点
1.自分1人で作成が可能な点
ともに他の相続人が関与することなく、自分1人で作成が可能です。
2.無効になるリスクがある点
自分で遺言書を作成する場合、ともに専門家による遺言書の内容のチェックが入らないため遺言書が無効になる危険があります。
この点は、司法書士などの専門家にチェックしてもらうことも検討することになります。
【相違点】
相違点は以下の4つがあります。
- 紛失・偽造の危険性
- 検索・通知システム
- 検認
- 費用
1.紛失・偽造の危険性
自己保管の自筆証書遺言では、死亡までになくしてしまったり、他の相続人に書き換えられる危険がありました。
これに対し、自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、法務局に保管されるため紛失・偽造の危険はなくなります。
2.検索・通知システム
自己保管の自筆証書遺言では、自分で保管するため、相続人に知らせておかない限り遺言書の有無を確認することができませんでした。
これに対し、自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、法務局に対して遺言書が保管されているかどうかの確認をすることができます。
3.検認
自己保管の自筆証書遺言では、死亡後に家庭裁判所に対して検認の手続きをしなければなりませんでした。
これに対し、自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、検認の手続きが不要となります。
4.費用
自己保管の自筆証書遺言では、無料です。
これに対し、自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、法務局に対する手数料として3900円かかります。
司法書士に依頼する場合は報酬額も別途かかります。
自筆証書遺言書 (自宅で保管) |
自筆証書遺言書保管制度 (法務局で保管) |
|
1.紛失・偽造の危険性 | あり | なし |
2.検索・通知システム | なし | あり |
3.検認 | 必要 | 不要 |
4.費用 | 無料 | 3900円 |
自筆証書遺言書保管制度と公正証書遺言との比較
【共通点】
共通点は以下の3つがあります。
- 紛失・偽造の危険性
- 検認
- 検索システム
1.紛失・偽造の危険性
公正証書遺言は公証人役場で、自筆証書遺言書保管制度を利用すれば法務局で保管されるため紛失・偽造の危険性がありません。
2.検認
公正証書遺言も自筆証書遺言書保管制度もともに検認の手続きは不要です。
3.検索システム
公正証書遺言も自筆証書遺言書保管制度もともに遺言書の有無を検索することができます。
【相違点】
相違点は以下の7つがあります。
- 費用
- 手間
- 通知制度
- 本人が出向けない場合
- 内容の事前チェック
- 本人の意思能力の確認
- 証人2名の準備の要否
1.費用
公正証書遺言では、遺産の金額や条件によって変動しますが、例えば遺産が3000~5000万円なら公証役場への手数料は5~8万円ほどかかります。
これに対し、自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、法務局に対する手数料は3900円かかります。
2.手間
公正証書遺言では、事前に公証人との打ち合わせが必要になるため時間がかかります。
これに対し、自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、遺言書をかけばすぐに提出できます。
3.通知制度
公正証書遺言では、死亡しても相続人に通知するという制度はありません。
これに対し、自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、死亡後に相続人に通知してくれるようにすることもできます。
4.本人が出向けない場合
公正証書遺言では、公証人の出張サービスがあります。
これに対し、自筆証書遺言書保管制度では、本人が法務局に出向くことができなければ利用することができません。
5.内容の事前チェック
公正証書遺言では、公証人が内容をチェックするため無効になる心配がありません。
これに対し、自筆証書遺言書保管制度の利用では、内容のチェックはされないため、無効になる危険が残ってしまいます。
6.本人の意思能力の確認
公正証書遺言では、公証人による意思確認がなされるため、後から判断能力の有無について争われても大丈夫です。
これに対し、自筆証書遺言書保管制度の利用では、判断能力の有無についての争いを回避することができません。
7.証人2名の準備
公正証書遺言では、遺言書作成当日に証人2名に立ち会ってもらう必要があるため、証人2名の準備が必要になります。
これに対し、自筆証書遺言書保管制度の利用では、遺言者1人でも手続きが可能です。
自筆証書遺言書保管制度 (法務局で保管) |
公正証書遺言 (公証役場で保管) |
|
1.費用 | 3900円 | 遺産総額によって決まる |
2.手間 | すぐにでも可 | 2週間~1か月 |
3.通知制度 | あり | なし |
4.本人が出向けない場合 | 利用不可 | 出張サービスあり |
5.内容の事前チェック | なし | あり |
6.本人の意思能力の確認 | なし | あり |
7.証人2名の準備 | 不要 | 必要 |
公正証書遺言と自筆証書遺言書保管制度のどっちを選択すべきか?
当事務所としては、公正証書遺言の作成をお勧めします。
自筆証書遺言書保管制度はまだまだ以下のような問題点が残るからです。
- 法務局は遺言の内容について相談に乗ってくれない。
- 公正証書遺言と違って本人確認と意思確認がされないため、判断能力を争われる可能性が残る。
- 遺言者・受遺者・遺言執行者・死亡時通知人の住所・氏名の変更届を忘れる可能性がある。
- 必要な書類(戸籍等)が多くなる。
自筆証書遺言書保管制度の最大のメリットは死後通知制度にありますが、住所が変わったのに変更届を忘れてしまうと死亡したときに通知が届きません。
自筆証書遺言書保管制度では、遺言者が死亡した後に、遺言書情報証明書を取得する段階で、「遺言者の出生から死亡までの戸籍」と相続人全員の住民票を求められます。これに対し、公正証書遺言の場合には、「遺言者の死亡記載の戸籍と、財産を受け取る相続人の戸籍」だけですぐに執行できます。
最後に
相続で揉める可能性もなく、念の為作りたいだけのような場合やとにかく費用がかからない方法にしたい等、個別のケースではいろんな事情がありますので、どのような制度を利用するか迷われたときは1度専門家にご相談されることをお勧め致します。
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