相続人に行方不明の人がいる場合の遺産分割協議
行方不明者がいる場合はどうすればいいですか?
目次
行方不明者を探すには、まず「戸籍の附票」を役所から取り寄せる!
行方不明者の住所がわからない場合であったとしても「戸籍の附票」を取得すれば最後の住所を調べることができます。
戸籍の附票とは、本籍地の市区町村において戸籍の原本と一緒に保管している書類で、その戸籍が作られてから(またはその戸籍に入籍してから)現在に至るまで(またはその戸籍から除籍されるまで)の住所が記録されています。
住民票は住所がわからないと取得できませんが、戸籍の附票は本籍地と筆頭者がわかれば取得できます。
依頼者が親族の方であれば、依頼者を起点に戸籍を追っていくことで、行方不明者まで到達することができます。
行方不明者の行方がわからなくなってから7年経過しているか
戸籍の附票を取得して住所がわかったとしても、実際には別の場所に住んでいることもあります。
そのような場合、どうすればいいでしょうか?
考えられる手段は2つあります。
「不在者財産管理人の選任」と「失踪宣告」です。
どちらの手段がとれるかについては、行方不明になってから7年経過しているかどうかによって変わります。
- 7年以内の場合
→不在者財産管理人の選任のみ - 7年経過している場合
→不在者財産管理人の選任又は失踪宣告
「不在者財産管理人の選任」と「失踪宣告」の違いとは?
不在者財産管理人の選任及び失踪宣告は、いずれも相続人が行方不明の時に利用する手続きではありますが、法的な効果には違いがあります。
【不在者財産管理人の選任】
不在者とは、従来の住所または居所を去り、容易に戻る見込みのない者をいいます。
「不在」といっても1週間や1ヶ月程度では不在者とは認定されず、おおむね1年以上は行方不明である必要があります。
不在者財産管理人の選任は、行方不明者が所有する財産について、行方不明者に代わって財産を管理する管理人を選任し、行方不明者が生存していることを前提として進める手続きです。
手続きにかかる期間は、申立をしてから1ヶ月~3ヶ月位が目安となります。
【失踪宣告】
失踪宣告は、失踪宣告を受けた行方不明者を法律上死亡したものとして扱う手続きです。
失踪宣告は、対象者はが生死不明になってから7年以上(戦争や遭難などの危難により生死不明である場合は1年以上)が経過していることが条件となります。
手続きに必要な期間は、申立をしてから約1年位が目安となります。
不在者財産管理人の選任 | 失踪宣告 | |
生死不明の期間 | おおむね1年以上 | 7年 (戦争や遭難などの危難により生死不明である場合は1年) |
不在者の扱い | 生存していると扱う | 死亡とみなす |
手続きにかかる期間の目安 | 約1~3か月 | 半年~約1年 |
不在者財産管理人選任の流れと必要書類は?
【不在者財産管理人選任の流れ】
- 必要書類の収集
- 管轄の家庭裁判所に申立て
- 家庭裁判所から照会書・回答書が送られてくる
- 家庭裁判所での調査
- 不在者財産管理人の選任・権限外行為許可
【必要書類】
- 不在者の戸籍
- 不在者の戸籍の附票
- 財産管理人候補者の戸籍の附票又は住民票
- 不在の事実を証する資料
例:不在者あて返戻郵便物、行方不明者届受理証明書など - 財産を裏付ける資料
不動産の場合、登記簿謄本及び固定資産税評価証明書
預貯金の場合、通帳のコピー、残高証明書 - 利害関係を証する資料
親族が申立人の場合、その親族の戸籍
債権者が申立人の場合、金銭消費貸借契約書写し等 - 遺産分割を目的とする場合は、さらに以下の書類も必要。
・遺産分割協議書の案
・相続関係説明図
・被相続人の戸籍(死亡から出生までのもの)
・相続人全員の戸籍 - 申立書、財産目録
裁判所のホームページから以下の書式をダウンロードできます。
申立書(ひな形、PDF)
不在者財産管理人選任の申立書・財産目録(記入例)
不在者財産管理人の権限外行為許可の申立書(記入例)
【家庭裁判所の管轄】
不在者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所
【申立人になれる人】
・利害関係人(不在者の配偶者,相続人,債権者など)
・検察官
【申立手続の費用】
・収入印紙・・・800円
・切手・・・裁判所によって異なりますが、おおよそ2000円程度。
・予納金・・・おおよそ30万円~50万円程度
※予納金は、管理費用、不在者財産管理人の報酬等の費用です。金額は申立時ではなく、選任時の審理によって初めて決まります。
・司法書士に依頼する場合、司法書士報酬
【かかる期間の目安】
2~3か月間
失踪宣告の流れと必要書類は?
【失踪宣告の流れ】
- 申立
- 家庭裁判所による調査
- 家庭裁判所による公示催告
- 家庭裁判所による失踪宣告
- 役所に失踪届を提出
1.申立
必要書類を集めたら、管轄の家庭裁判所に申し立てをします。
2.家庭裁判所による調査
裁判所は警察や管轄運転免許センター等に対し、不在者の情報が登録されていないか調査嘱託を行います。
それでも不在者の生存が明らかとならない場合は、申立人や親族等に対し、調査官による聞き取り調査等が行われます。
3.家庭裁判所による公示催告
その後,裁判所が定めた期間内(3か月以上。危難失踪の場合は1か月以上)に,不在者は生存の届出をするように,不在者の生存を知っている人はその届出をするように官報や裁判所の掲示板で催告がなされます。
4.家庭裁判所による失踪宣告
期間内に届出などがなかったときに失踪の宣告がされます。
審判書謄本が、申立人へ送達されます。
送達後、即時抗告がないまま2週間経過する事で、審判が確定します。
確定すると、裁判所書記官は失踪宣告を官報に掲載すると同時に、不在者の本籍地を管轄する役所へ通知します。
5.役所に失踪届を提出
通知だけで戸籍には反映されませんので、申立人が役所に「失踪届」を提出する必要があります。
失踪届は、確定日から10日以内に失踪者の本籍地の役所へ提出します。
役所に提出する書類は、①失踪届書、②届出人の印鑑、③家庭裁判所の審判書の謄本および確定証明書となります。
確定証明書は、失踪届を出す際に必要になりますが、失踪宣告の申立をしただけではもらえないので、確定した後に別途、申請用紙に150円分の収入印紙を貼って,審判をした家庭裁判所に申請しなければなりません。
【必要書類】
- 家事審判申立書
裁判所のホームページから以下の書式をダウンロードできます。
【申立書ダウンロード】
【申立書記入例】 - 不在者の戸籍
- 不在者の戸籍の附票
- 失踪を証明する資料(行方不明者届受理証明書、不在者宛ての手紙など)
- 申立人の利害関係を証明する資料(親族の場合には戸籍謄本)
【家庭裁判所の管轄】
不在者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所
管轄裁判所を調べたい方はこちら
【申し立てができる人】
利害関係人(不在者の配偶者,相続人,財産管理人,受遺者など)
【かかる費用】
・収入印紙800円
・連絡用の郵便切手
家庭裁判所ごとに異なります。
例:東京家庭裁判所の場合
3270円
(参考)東京家庭裁判所、手続案内
例:さいたま家庭裁判所の場合
3570円
(参考)さいたま家庭裁判所、予納郵券一覧
・官報公告料4816円
・司法書士に依頼する場合は、その報酬
【かかる期間】
失踪宣告の申立てをしてから失踪宣告がされるまで、半年以上かかります。
不在者の最後の住所地が海外の場合はどうすればいいの?
不在者の最後の住所地が海外の場合、外務省で「所在調査申込」を行う必要があります。
外務省の「所在調査申込」は、郵送で行います。
この手続きは、外務省が現地で不在者の調査を行う訳では無く、在外公館で保有している資料で、不在者の住所が判明するかどうかを、書面上でチェックする手続です。
所在が判明しなかった場合は、その旨の回答が郵送されてきます。
遺産分割協議書の案を作成するときの注意点
1 法定相続分の確保
裁判所は、不在者が不当な不利益を受けないように配慮するため、不在者が法定相続分以上の財産を取得する内容の遺産分割協議案でないと、原則としてOKを出しません。
2 帰来時弁済(きらいじべんさい)型の遺産分割
帰来時弁済型の遺産分割というのは、「一旦、他の相続人が不在者のために法定相続分以上のお金を預かり、不在者が戻ってきた場合には、不在者に対して、預っておいたお金を支払う」というものです。
不在者が法定相続分以上の相続分を取得するような形で遺産分割協議を成立させると、不在者財産管理人は、不在者が現れるまでずっと、取得した財産を預ることになります。
そうすると、不在者がなかなか戻らなければ、いつまで経っても財産の管理をし続けないといけないこととなり、不在者財産管理人はとても大変です。
このような事態を避けるために、「帰来時弁済(きらいじべんさい)型の遺産分割」という方法がよく利用されています。
遺産分割協議書には「〇〇は、将来、不在者〇〇が帰来した場合に、同人に対して金〇〇万円を支払うものとする。」という文言を入れます。
ただし、行方不明者が戻ってきたときに、預っていたお金を使ってしまっていたなどということのないように、お金を預かる相続人は、家庭裁判所に対して資力が十分あるということを証明する必要があります。
帰来時弁済型の遺産分割は、不在者の法定相続分に相当する金額が100万円を超える場合には、認められる可能性が低くなります。
帰来時弁済型の遺産分割が認められない場合は、不在者の法定相続分の相当する金額を不在者財産管理人に預けることになります。
不在者財産管理人は毎年、管理の報酬を家庭裁判所に請求するのですが、報酬は預かったお金からもらう形になります。