未成年者がいる場合の遺産分割協議
未成年者は遺産分割協議に参加することができない!
目次
未成年者の代わりに特別代理人を立てる必要がある!
特別代理人とは?
特別代理人とは、本来の代理人が代理権を行使することが不適切な場合や代理が不明な場合等に、家庭裁判所によって特別に選任される代理人のことをいいます。
法律上では、未成年者は単独では有効に法律行為をすることができないと決められています(民法第5条)。
そのため、遺産分割協議等の法律行為は、未成年者の代わりに親権者や特別代理人といった法定代理人が行う必要があります。
法改正により、成年年齢が引き下げられました。
未成年者の年齢については民法の改正が行われています。
成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。
今回の民法改正は、令和4年4月1日から施行されます。
未成年の相続人に特別代理人の選任が必要になるケース
未成年の相続人に特別代理人の選任が必要になるのは以下のような2つのケースです。
- 親と未成年者がともに相続人になるケース
- 親は相続人ではないが、未成年者が複数いるケース
1.親と未成年者がともに相続人になるケース
親と未成年者がともに相続人になる場合、未成年者に特別代理人を立てる必要があります。
親と未成年の子との間で「利益が相反する」からです。
「利益が相反する」というのは、一方が得をする場合、他方が損をする関係にあることをいいます。
今回のケースでは、親が代理人となると、相続財産のすべてを自分が相続すると決めて、子には一切の相続財産を分けないとすることもできてしまいます。
法律ではそういったことを防ぐため、親が未成年の子の代理人となることができないよう規定しています。
なお、未成年の子が2人以上いるのであれば、特別代理人をそれぞれ別々に立てなければいけません。
なぜなら、子と子の間でも利益が相反するからです
<具体例>
夫が亡くなり、相続人が妻と未成年の子供3人の場合を考えてみます。
この場合、子供3人にそれぞれ別の特別代理人を立て、妻と特別代理人3人の計4人で遺産分割協議をすることになります。
2.親は相続人ではないが、未成年者が複数いるケース
相続人でなければ、親は親権者として未成年者のうち1人の代理人になることはできます。
しかし、子と子の間でも利益が相反します。
そのため、他の未成年の子供には別途特別代理人を立てる必要があるのです。
<具体例>
両親が離婚し、母が親権者として未成年の子供3人を引き取っていたところ、父が再婚もせずに亡くなった場合を考えてみます。
この場合、母は離婚しているため相続人ではありませんが、母は親権者なので、未成年の子供3人のうち1人の法定代理人として遺産分割協議に参加できます。
他方、残りの2人の子についてはそれぞれ特別代理人を立てる必要があります。
そのため、母と特別代理人2人の計3人で遺産分割協議をすることになります。
未成年の相続人に特別代理人の選任が不要なケース
未成年の相続人に特別代理人の選任が不要なのは以下のような3つのケースです。
- 親は相続人でないが、未成年の子供が1人のケース
- 親権者と未成年者が共に相続人であったが、親権者が同時又は先に相続放棄をしたケース
- 法定相続分どおりに相続財産を分けるケース
1.親は相続人でないが、未成年の子供が1人のケース
相続人でなければ、親は親権者として未成年者のうち1人の代理人になることはできます。
そのため、未成年者が1人であれば特別代理人を選任する必要はありません。
2.親権者と未成年者が共に相続人であったが、親権者が同時又は先に相続放棄をしたケース
相続放棄をすると「初めから相続人ではなかった」とする効力が生じるため、利益が相反することもなくなります。
3.法定相続分どおりに相続財産を分けるケース
法定相続分どおりに分けるのであれば、そもそも遺産分割協議が不要となるので、特別代理人を選任する必要もなくなります。
特別代理人選任の流れ
- 必要書類を集める。
- 家庭裁判所に特別代理人選任の申立をする。
- 家庭裁判所から特別代理人候補者に照会書と回答書が郵送される。
- 特別代理人候補者が家庭裁判所に回答書を郵送する。
- 特別代理人の選任審判書が送られてくる。
【申立先】
特別代理人を立てるには、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てをしなければいけません。
【申立てができる人】
特別代理人選任の申立てができるのは、親権者と利害関係人です。
未成年者自身はできません。
【特別代理人の資格】
特別代理人になるのに資格は不要です。
相続人でない親族を候補者にすることが多いのですが、親族でなくても構いません。
司法書士等の相続の専門家を候補者とすることもできます。
【かかる期間の目安】
申立てから審判結果が通知されるまで、約1か月程度かかります。
【審判結果の通知】
選任が認められると、裁判所から、申立人と特別代理人に特別代理人選任審判書が送付されます。
特別代理人選任申立ての必要書類
- 特別代理人選任申立書
申立書は裁判所のホームページから以下の書式をダウンロードすることができます。
特別代理人選任申立書(ひな形、word形式)
特別代理人選任申立書(記載例) - 未成年者の戸籍
- 親権者の戸籍
- 特別代理人候補者の住民票(または戸籍の附票)
- 遺産分割協議書の案
- 他の相続人からの申立ての場合
→相続人であることがわかる戸籍 - 相続財産の評価額がわかる書類
不動産の場合→登記簿謄本及び固定資産評価証明書
預貯金の場合→残高証明書(死亡日のもの)、通帳のコピー
特別代理人選任申立書には、候補者を記載する欄があります。
特別代理人候補者として誰を挙げればよいのでしょうか?
相続人でなければ誰でも特別代理人になることができます。
具体的には、以下の者はすべて特別代理人候補者として挙げることができます。
- 相続人でない親族
- 友人、知人
- 司法書士、弁護士などの法律の専門家
このうち、相続人でない親族の方を候補者に挙げるのが最も多いです。
代理人になれば遺産分割の内容を知られてしまうため、他人には頼みにくいからです。
親族に頼む人がいなければ、友人・知人や、司法書士等を候補者として挙げることも可能です。
また、候補者が特にいない場合は空欄のまま提出して問題ありません。
その場合、家庭裁判所が弁護士等を特別代理人に選びます。
ただ、司法書士や弁護士などの法律の専門家を候補者として挙げた場合や、空欄で提出した場合は、専門家に対しての報酬の支払いが必要となります。
特別代理人の選任において、1番大事なポイントは遺産分割協議書(案)の作成です。
特別代理人候補者が誰かは重要ではありません。
特別代理人に就任するための資格等も不要となっています。
なぜなら、特別代理人は選任された後、自由に協議することができるわけではなく、家庭裁判所がOKを出した遺産分割協議書(案)どおりに事を進めるだけだからです。
特別代理人は未成年者の法定相続分を必ず守らなくてはいけないの?
原則として、未成年者の法定相続分を確保する必要があります。
なぜなら、特別代理人の職務は、「未成年者の利益を保護する」ということにあるからです。
例えば、未成年者の法定相続分が2分の1なら、未成年者が2分の1以上の割合で相続する旨の内容にする必要があるということになります。
例外的に、相続財産の大部分が自宅不動産の場合や、今後、未成年者の養育費として相当額の費用が見込まれる場合など、特別の事情がある場合は、法定相続分を下回っていても認められることもあります。
これらの事情は申立をした後、家庭裁判所から照会書が届いたときに、回答書に記載していくことになります。