遺言書の偽造が疑われる場合の対処法と回避法について
偽造された遺言書は無効
自筆証書遺言について、遺言者がその全文、日付、氏名を自書して押印することが有効要件となっています。
偽造された遺言書は「自書」という要件を満たしておらず、無効になります。
遺言書が無効となってしまった場合、偽造された遺言はなかったものとして、遺産分割が行われることになります。
遺言書が偽造されてしまうのは、自筆証書遺言書を自分で保管する場合になります。
なぜなら、公正証書遺言書は公証役場に保管されているし、自筆証書遺言保管制度を利用した場合は法務局に保管されているので、第三者が偽造することができないからです。
偽造と疑うべき場面
たとえば、次のような場合に遺言書の偽造が疑われます。
- 認知症になっていて意思表示ができないはずなのに遺言書が書かれたケース
- 病気が進行して文字が書けない状態なのに遺言書が書かれたケース
- 遺言書の内容が特定の相続人に有利で、被相続人が生前に言っていた内容とは異なるケース
偽造を疑ったときの対処法
1.家庭裁判所で検認手続き
たとえ偽造の可能性があったとしても、手続き上は一旦検認を行う必要があります。
自筆証書遺言を自分で保管している場合は、家庭裁判所で「検認」という手続きを経なければ次のステップに進むことができません。
自筆証書遺言の検認手続きについて知りたい方はこちら
→自筆証書遺言の検認手続きの流れと必要書類
2.遺言無効の調停・訴訟
原則としては訴訟の前に家庭裁判所で家事調停を申し立てる流れになります。
しかし、相続における遺言書のトラブルは多くの場合関係者間の対立が激しく、話し合いでは解決できないケースがほとんどなので、すぐ訴訟に進むことが多いのが現状です。
この調停や訴訟の中で偽造と疑った証拠を提出し、結果偽造と認められれば、その遺言書は「無効」となります。
遺言書が偽造されたものかどうかを確かめるのに、最もよく用いられる方法が筆跡鑑定です。
筆跡鑑定とは、筆跡を比べて本人が書いたものかどうか鑑定することをいいます。
遺言書を書いた本人が他にも手紙やハガキなどを書いていれば、それを証拠として提出するため、手紙やハガキは捨てないで保管しておくべきです。
筆跡鑑定は、筆跡鑑定の専門家に鑑定を依頼します。
偽造者のペナルティ
1.相続権の喪失
遺言書を偽造した者は、相続の欠格事由に当たります。
欠格事由に該当すると相続権を失ってしまいます。
※欠格事由は民法に列挙されています。
民法第891条
次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
※偽造と変造の違い
偽造とは,作成する人を偽って文書を作成したり,作成権限がない人が文書を作成することをいいます。
他人の名前を使って文書を作ったりすることがこれにあたります。
他方、変造とは,一旦真正に作成された文書の内容を,作成権限のない者が変更することをいいます。
但し、本質的な部分を越える改変であって全く異なる価値を作り出したと評価される場合は変造ではなく偽造に該当するとされています。
おおまかなイメージとしては以下のようになります。
・変造は、もともとあった真実の文書をウソの文書に作り変えてしまうこと。
2.刑事罰の対象となる
遺言書を偽造すると、私文書偽造罪・変造罪という罪に当たり、5年以下の懲役が科されます。
刑法第159条1項
行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
遺言書を偽造されないためにどうすればいいか
遺言書の偽造を防ぐためには、公正証書遺言書にするか、自筆証書遺言保管制度を利用するのがおすすめです。
公正証書遺言であれば、破棄や隠匿はもちろん、偽造・変造の可能性も限りなくゼロに近いなります。
公正証書遺言書は公証役場に保管されているし、自筆証書遺言保管制度を利用した場合は法務局に保管されているので、第三者が偽造することができないからです。
公正証書は、作成するのに時間とお金がかかります。
公証人と直接やり取りしながら遺言書を作ってもいいのですが、公証役場に足を運ぶ手間がかかってしまいます。
公正証書遺言の原案を作る場合に、自分一人では難しかったり、忙しくてなかなか作れないという場合は、司法書士などの専門家の手を借りるのも良い方法です。
また、自筆証書遺言書保管制度を利用する場合では、本人が作成した遺言が有効かどうか法務局は見てくれないため、一旦は司法書士に相談することを検討した方がよいと思われます。