遺言執行者とは?
遺言執行者はなぜ必要か?
遺言執行者とは,遺言の内容を実現する者のことをいいます。
遺言執行者は必ずしも必要なものではありません。
しかし、遺言を作成する際は必ず遺言執行者を指定するようアドバイスしています。
遺言を作成しても、自身が亡くなった後のことは分かりません。
そのため以下のような不安もあるでしょう。
- 遺言の内容通りに相続してくれるかな?
- 遺言の存在に気づいてもらえるだろうか?
信頼できる方を遺言執行者として指定しておけば、確実に遺言の内容を実現してもらうことができます。
遺言執行者は単独で相続手続きをする権限がありますので、手続きをスムーズに進めることができます。
遺言執行者が行う業務の流れ
遺言執行者の業務は、遺言者が亡くなった直後から開始されます。
遺言執行者の業務は以下のような流れで進めます。
- 相続人の調査
- 遺言執行者就任の通知
- 検認手続き(自筆証書遺言の場合のみ)
- 遺産の調査、財産目録の作成
- 遺言の内容を実現するための手続き
- 業務完了の報告
1.相続人の調査
遺言執行者に就任したら、まず「相続人が誰か」を確定させるため、相続人の調査をします。
相続人の調査方法は戸籍を集めることで行います。
2.遺言執行者就任の通知
戸籍の収集により明らかになった相続人全員に就任した旨を伝えます。
遺言執行者の通知の方法については、明文上決まりはありませんので、どのような方法で行っても良いとされています。
ただ、相続人に対する遺言内容の通知は義務であるため(民法1007条2項)、「遺言執行者就任通知書」のようなタイトルを付けた書面を送付することをお勧めします。
遺言執行者就任通知書
〇〇様
拝啓
時下ますますご清祥の段、お慶び申し上げます。
私は、平成○年○月○日付公正証書遺言(○○法務局所属 ○○公証役場 公証人○○○○第○○号)において遺言執行者に指定されました。
この度、令和○年○月○日をもって遺言執行者となることを承諾致しましたので、本書をもってお知らせします。
なお、私は、遺言の内容を実現する範囲で、法律上、相続財産の管理と遺言執行に必要な一切の行為を行う権限を有することとなりました。これに伴い、相続人の方々は、相続財産の処分その他遺言の執行の妨げとなる行為を行うことができなくなりましたので、ご理解とご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。
今後は、故人の想いを承継するために、遺言執行者として遺産を管理し、遺言の執行を行ってまいります。
なお、故人の遺言の内容は、添付のとおりでございますので、併せてお知らせいたします。
ご不明な点等ございましたら、お気軽にお問い合わせいただきますようお願い申し上げます。
遺言執行者 ○○
3.検認手続き(自筆証書遺言の場合のみ)
自筆証書遺言を自宅で保管しているような場合、遺言執行の前提として、まずは、遺言書の保管者または遺言書を発見した相続人が遺言書を家庭裁判所に提出して検認の手続きをすることが必要です。
遺言書の検認とは、家庭裁判所において、相続人などの立ち会いのもと、遺言書を開封して内容を確認する手続きのことです。
検認の手続きは、「公正証書遺言」や「法務局で保管する自筆証書保管制度」を利用した場合は不要です。
4.遺産の調査、財産目録の作成
遺産の調査については、遺言の内容にもよります。
遺言執行の対象が特定の不動産のみのような場合はその不動産の調査のみで足ります。
これに対し、「一切の財産を相続させる」のように全財産を対象としている場合はすべての遺産を調査する必要があります。
この場合、遺産は、「プラスの財産」だけでなく「マイナスの財産」も明らかにしなければいけません。
具体的な調査方法は以下のようになります。
遺産 | 調査方法 |
不動産 | 権利証や納税通知書を探してみる。 なければ市役所で名寄帳を取得する。 対象の物件がわかれば法務局で登記事項証明書を取得する。 |
預貯金 | まず通帳を探してみる。 なければ金融機関で残高証明書を取得する。 |
株式・投資信託 | まず証券や残高報告書を探してみる。 なければ各証券会社等へ照会をかける。 |
借金 | まず通帳を見て引き落とし履歴や、債権者から届いた請求書などの郵送物を確認する。 借入状況が分からない場合には、各信用情報機関へ情報公開を請求する。 |
遺産の調査が完了したら、調査の内容をまとめて「財産目録」を作成します。
5.遺言内容実現のための手続き
遺言執行こそが遺言執行者の中心となる職務になります。
具体的には以下のようになります。
遺産 | 遺言執行の職務 |
不動産 | 名義変更をするため、法務局に登記申請 |
預貯金 | 預金の解約又は名義変更 |
株式・投資信託 | 名義変更(及び売却) 換金したい場合でも一旦相続人名義に変更する必要がある。 |
借金 | 債権者への支払い |
6.業務完了の報告
遺言の執行が完了したら、相続人全員に業務完了の報告をします。
これで遺言執行者の業務は終了となります。
遺言執行者の選任方法
遺言執行者の選任方法は3つあります。
- 遺言書で選任する
- 家庭裁判所が選任する
- 第三者が選任する
1.遺言書で選任する
遺言書であらかじめ「遺言執行者〇〇とする」というように指定する方法になります。
2.家庭裁判所が選任する
遺言書で遺言執行者が指定されていない場合、家庭裁判所に選任をしてもらうことができます。
3.第三者が選任する
遺言書のなかで、「甲が遺言執行者を選任する」ということを記載してあれば、甲が遺言執行者を選任することになります。
既に甲が死亡している場合には、家庭裁判所が選任する方法になります。
遺言執行者の就任を拒否する方法
遺言執行者に指定された人であっても、実際に遺言執行者に就任するかどうかは自由です。
その場合は、就任を辞退する旨を相続人に伝えます。
遺言執行者に指定された人が就任を拒否した場合、原則として相続人全員で協力して手続きをしなければならなくなります。
家庭裁判所に対して新たな遺言執行者の選任してもらうこともできます。
遺言執行者の解任と辞任
1.遺言執行者の解任
遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、家庭裁判所に解任を請求することができます(民法1019条1項)。
「任務を怠ったとき」とは、遺言執行者がその任務に違反した行為をした場合や任務を放置して実行しない場合」をいいます。
「その他正当な事由」とは、遺言執行者について遺言の公正な実現を阻害する事由のある場合です。例えば、長期の病気、行方不明、長期の不在や遺言執行者が相続人の1人に特に有利な取り扱いをして公正な遺言執行を期待できない場合などです。
2.遺言執行者の辞任
遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができます(民法1019条2項)。
「正当な事由」とは、例えば、長期の病気、長期の出張、多忙な職務などの事情によって遺言を執行することが困難な場合をいいます。
遺言執行者の報酬
1.遺言書に記載がある場合
遺言書に記載があれば記載された金額に従います。
2.遺言書に記載がない場合
遺言書に記載がなければ相続人間で話し合いをして決めます。
話し合いで決まらなければ家庭裁判所に申立てて報酬額を決めてもらうこともできます。
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